ハンドメイドルアーの製作において、コーティングは非常に重要な工程です。

私は、コーティングにはエポキシをメインに使用しておりますが、ルアー製作の最終コーティングで、ピカッとカチッと、ガラスのように硬く美しいコーティングに仕上がったときは、とても達成感があり嬉しいものです。


※関連記事:ルアーコーティングの種類とそれぞれの特徴、メリット、デメリットについて


エポキシコーティング剤


ハンドメイドルアーのコーティングに使えるエポキシについて


エポキシは、主剤と硬化剤を規定の割合で正しく混合することで、硬く透明度の高いコーティング膜を作ることができる、いわゆるレジン(樹脂)です。

エポキシは、短時間で分厚いコーティングを作ることができ、塩分にも強いので、特にダイビングペンシルなど大型のウッドルアーや消耗の激しいソルトウォーター向けのルアー製作に適しています。


流通しているエポキシの大半がルアー製作には適さない理由


そんなエポキシですが、使う製品しだいで仕上がりも大きくかわります。

流通しているエポキシでルアー製作に適したエポキシは非常に少なく、日本国内で手に入るものは限られています。

アクセサリー作りやアート作品用のエポキシは、アマゾンなどでも数多く流通していますが、それらはルアーコーティングに不向きなものばかりです。

釣具店で販売されているものもありますが、それらはロッド製作に使うガイドスレッドのコーティング用で、少量かつ単価も高いのでこれまたルアー製作には適しません。


また、それらが適さない一番の理由は、硬化速度です。


一般的なエポキシは、硬化するまでに24時間~数日かかるものが大半で、さらに100%の完全硬化までには一週間ほどかかるものもあります。

表記上は硬化時間12時間と書いてあっても、実際は倍以上かかるものや、ルアーコーティングのように一度の使用量(混合量)が少ない場合、本来のパフォーマンスが発揮できない物も多いです。

特にアート作品用のエポキシレジンなど型に流し込んで固めるタイプは、混合比に加えて、一回あたりの使用量も重要になってきます。

ある程度のボリュームがないと硬化促進されず、表記上の硬化時間が実現しないものも多いです。(一定量の混合により発熱を伴い硬化するため)


それから、エポキシは、基本的には色流れしにくいのですが、硬化時間が長くなると、粘度が低いエポキシの液体に塗装面やホログラム面が長時間浸かった状態になるので、じんわりと色が流れてきたり、ホログラム等の貼付面にエポキシが染み込んでシールが浮いてきたりすることがあります。

また、扱いがかなりデリケートで、混合比を少し誤ったり、使用環境などにより硬化不良が起こりやすく、初心者には難しく感じるかもしれません。

さらに、昨今のDIYブームにより、安価なエポキシレジンが数多く流通しており、中には粗悪品も多く、安いからと言って選択を誤ると、いつまでたっても硬化しなかったり、ベタつきが残ったり、白濁したり、せっかくの力作が最後のコーティングで台無し!なんてことにもなりかねません。


ルアーコーティングに使えるおすすめの良質なエポキシ4選


そこで、長年ルアー製作をしてきて、数々の失敗も積み重ねた私のおすすめのエポキシを紹介させて頂きます。

それと、まだ試してないですが、気になるエポキシがありますので、もし使ったことがある方がいらっしゃいましたら情報提供頂けると幸いです。

シルバーチップエポキシ

出典:SYSTEM THREE


このエポキシは、アメリカのシステムスリー社の製品で、カヌーなのどのコーティングにも使われる非常に高品質でとても扱いやすいエポキシです。

超光沢、高透明の美しいコーティングに仕上がります。


硬化剤タイプには、ファーストタイプとスロータイプがあり、ルアー製作には断然ファーストタイプが最適だったのですが、残念ながら国内代理店ではファーストタイプの取り扱いができなくなったとのこと。理由はわかりませんが、入荷未定となってしまいました。

アメリカの本社にも問い合わせてみましたが、日本の代理店経由でないと販売できないとのことで、残念でなりません。


しかし、シルバーチップならスロータイプでもとても扱いやすくおすすめです。

スローと言っても、その辺のエポキシより硬化は早く、ゲル時間60分、タックフリーで6時間ほど、実用強度までは12時間~24時間で硬化します。

ゲル時間とは


2液を混合してから作業を行える時間。ルアーコーティングの場合、2液を混合してから30分~60分ほど放置し、少し硬化が進んでからコーティングすることにより、液垂れしにくく、一度で分厚いコーティングが可能となります。


タックフリーとは


エポキシの硬化がある程度進み、表面を触ってもベタつかない状態のこと。この状態の上からコーティングを重ねることにより効率よく厚いコーティングを形成することができます。


また、このシルバーチップエポキシは、低温下でも難なく硬化し、なんと最低2度までの低温下でも使用可能とのこと。気温や湿度の影響もあまりなく、低温下でも品質が安定しているので、コーティングで失敗することは少ないと思います。

ハジキが発生することも少なく、アミンブラッシングなど硬化不良が起こるこもありません。

欠点としては、硬化剤の方が黄変しやすく、保存環境によっては数日~数ヶ月で黄色くなってしまいます。
しかし、ルアーコーティング程度の薄さならこの黄色味が目立つことはなく、仕上がり後は全く気にならないと思います。


スロータイプの方は今後も問題なく入荷されるとのことで、日本国内の正規代理店は、ヒロウッデンカヌーショップさんのみです。


C15エポキシ

出典:ヒロウッデンカヌーショップ

こちらもヒロウッデンカヌーショップさんで取り扱いされているコーティング用のエポキシです。

シルバーチップのファーストタイプの代替品として取り扱い開始されました。


基本、ファーストタイプのエポキシなのですが、これがビックリするほど硬化時間が速く、3時間ほどてタックフリーとなり、8時間もすればカチカチに硬化してくれます。

また、混合後に20分ほど放置すれば、トロトロに液垂れしないほどに粘度が高まるので、一度に厚めに塗って、回転モーターなども使わずに、吊り下げておくだけで分厚いコーティングが可能です。

もちろん、完全硬化には丸1日以上置いた方がよいのですが、急ぎの時などは12時間も経てば実用強度として実釣で使えないこともないくらい硬化します。

重ねてコーティングする際などは、2~4時間おきに重ねれば、短い時間で厚く美しいコーティングに仕上げることも可能です。


ただし、注意点もあり、薄くコーティングするとハジキ、ヒケ、痩せ、が発生しやすい印象です。

また、使用環境にはデリケートで、気温が低いと主剤の粘度が高くなり、とろみが強くなるので、混合の際に計量しにくかったりします。(その場合は、ヒーター等で温めると粘度が低くなり扱いやすくなります。ただし、低い温度に戻るとまた粘度が上がりとろみが増します。)


ハジキ対策としては、下地の塗料にもよりますが、一度のコーティングで表面張力が効くくらい厚めに塗ればハジキが発生しにくくなります。


ウルトラエポキシクリアーPRO

出典:GIJIKEN

こちらは、GIJIKENさんというネットショップで購入可能なエポキシで、ルアーコーティング専用として販売されています。

とても透明度が高く、主剤、硬化剤ともにクリアなエポキシコーティング剤です。
GIJIKENさんでは、エポキシの他に、ハジキを防止するプライマー(下地剤)や3Dコーター(回転モーター)なども取り扱いされており、エポキシ系ルアービルダーには心強い存在です。


ウルトラエポキシクリアー(ノーマル)とウルトラエポキシクリアーPROがありますが、素人目には見分けがつきません。

硬化後の美しさ(仕上がり)はPROの方が良いとのことです。また、当然ですが、品質的にもPROの方が高品質のようです。

硬化速度についても、PROの方が少し早く設定されており、PROを使用する方が安定した仕上がり品質を維持できると思います。


ウルトラエポキシクリアーPROの硬化時間など

室温25℃下での硬化時間
  • ゲルタイム:1.5時間 
  • タックフリー時間:4~6時間
  • 完全硬化時間:24時間
混合比
  • 体積比:100:50
  • 質量比:100:33

質量比だと100:33で少し計算がしずらく、混合比の計算が難しいですね。


このウルトラクリアエポキシの弱点はハジキ。一回目のコーティングでは必ずといってよいほどハジキ(ひけ、痩せ含む)が発生するとの注意書きがあります。


※実際使用した感じでは、そんなにハジキが頻繁に発生することはなく、塗料との相性や気温や湿度など、何らかの条件が重なれば発生しやすくなるのかな?と思います。


ハジキが発生した場合は、半硬化状態の上から追いエポキシすることで、エポキシの凹凸が埋まり、綺麗なコーティング面に仕上がります。

また、2液混合後に30分~60分ほど放置し、粘度を高めた状態で厚塗りすると、ハジキは発生しにくい印象です。


専用のプライマーおよび回転モーターを使用する前提のエポキシですので、このウルトラエポキシクリアーPROを使用する場合は、プライマーと回転モーターの使用をおすすめします。



ウォータークリアレジン




こちらは造形ラボさんが販売されているエポキシで、アマゾンや楽天で購入できるエポキシでは唯一おすすめできる製品です。

とても黄変しにくいエポキシで、硬化後は高透明で美しいガラスのようなコーティングに仕上がります。

薄く均一になじむ感じで、一度に厚塗りしたりは難しいですが、ハジキやヒケ、硬化不良等は今のところ発生したことはありません。


ただし、湿度の影響か混合比の影響かはわかりませんが、硬化中に白濁することがあります。

完全硬化すれば白濁は消えるのですが、気になる場合は硬化中に一度ヒーター等で温めるとクリアに戻り、その後は再び白濁することはありません。

それと、完全硬化する前に水に浸けたりすると白濁することがあるので、しっかり硬化してから使うようにしてください。


設定上の硬化時間が4時間と非常に短いので期待していたのですが、残念ながらルアーコーティングでは4時間どころか24時間以上かかってしまいます。(真冬だと24時間経過後もまだ少し弾力が残ってる感じですが、3日も経てばカチカチに硬化し、硬くクリアなコーティングに仕上がります。)


ウォータークリアレジンでコーティングしたルアー
ウォータークリアレジンでコーティングしたハンドメイドルアー

では、なぜそのような時間設定になっているのかというと、このエポキシはあくまでアート作品などある程度の厚み(ボリューム)のある作品を作るためのエポキシなので、ルアーコーティングなど少量での混合では硬化が促進されず、正規の硬化パフォーマンスが発揮できなくなるようです。

このエポキシを使用する際は、少し多めの量で混合し、ヒーターなどで温度を上げて硬化を促進させると良いです。
このウォータークリアレジンは最大60度まで加熱OKとのこと。温度が高い方が硬化が促進されるようです。(造形ラボさんに問い合わせ済)

ポットライフが長く、液だれもしやすいので、フィニッシングモーターを使った方がきれいに仕上がると思います。
※粘度が低い状態が長いため、塗装面やホログラム面の剥がれや浮きが発生するリスクが高いので注意が必要です。

私の場合は、塗装前の下地コーティングや傷ついたハンドメイドルアーのコーティングの補修に使っています。

また、シルバーチップやC15の上から仕上げとしてウォータークリアレジンで薄くコーティングしたりもします。

アマゾンや楽天で購入できる点は安心感がありますが、造形ラボさんのエポキシはコーティング用ではないので、それを踏まえた使い分けが必要かと思います。

今後、コーティング用途向けの硬化速度の早いエポキシも販売して頂けると嬉しいですね。ルアーだけでなく、カヌーやサーフボードなどでもニーズはあるので、造形ラボさん、ぜひお願いします!



気になるエポキシ


これはまだネットで調べて見つけただけで、一度も試したことがないのですが、説明書きを見る限り、ルアーコーティングにも使えそうだなと思っているエポキシです。


TLS TOOLS エポキシレジン




サーフボードのリペア用のエポキシみたいすが、表記上は1時間ほどでゲル化し、6時間も経てば切削も可能との表記があります。

この缶のデザインもかっこいいので気になっています。


シルバーチップもカヌーやサーフボードのコーティングに使われるので、うまく行けばこのTOOLSのエポキシもルアーコーティングにもはまるのではないかと考えています。

いや、そもそもこのエポキシは透明なのか?それもわからないのですが…、クリアならクリアと書いておいてほしいですね…。あまり詳しい説明やWEB上のインプレも見つからないので少々不安なのですが、近いうちに購入し、試してみたいと思っています。

もし、このエポキシを使用されたことのある方がいらっしゃいましたら、コメントかDMを頂けますと大変嬉しく思います。


エポキシコーティングを成功させるコツ


気温と湿度には注意


エポキシは使用環境の影響を受けやすく、とくに、気温と湿度には敏感です。
そもそも、エポキシに限らず、ウレタンやセルロースセメントなども共通して、気温や湿度には敏感です。

むしろ、エポキシがそれらの影響を一番受けにくいかもしれません。

また、良質なエポキシは気温や湿度の影響を受けにくくはなっていますが、それでも多少の影響はあり、100%ではありません。


最適な環境としては、室温25度以上で、湿気の少ない乾燥した環境がベストです。


ただし!気温が低いからといって、石油ストーブや石油ファンヒーターを使用したお部屋で使うと硬化不良を起こしやすくなりますので注意が必要です

※石油ストーブは燃焼の際に大量の水蒸気を発するため、エポキシの硬化不良の原因となる場合があります。また、火災の原因にもなる恐れがありますので、エポキシ使用時の石油ストーブの使用はおすすめしません。


エポキシコーティングに際しては、お部屋を暖める際は、電気ストーブ(セラミックヒーター)やエアコンの暖房を使用し、加湿器なども使用せずに乾燥した室内での使用が最適です。

足元用の小型セラミックヒーターがあると便利です。



計量は厳密に


エポキシを混合する際の計量(重量比・体積比)については、厳密に計測ができる秤を使用してください。

個人的には、体積比より重量比での混合をおすすめします。

重量比を使うなら、0.01gまで計測可能な精密デジタルスケールをおすすめします。




撹拌は入念に


主剤と硬化剤を混合後は、しつこいくらいよく撹拌し、状況に応じてヒーターやヒートガンなどで温めると粘度が下がり混ざりやすくなり、気泡も残りにくいです。

また、つまようじなど尖った細い棒の先でかき混ぜれば、気泡が発生しにくいです。



エポキシの除去にはアセトンやアルコールが有効


エポキシを使った後の筆や器の清掃は、ネイル用の除光液(アセトン)やアルコールなどでよく落ちます。シンナーでも落ちますが、臭いや危険性も考慮して、アセトンかアルコールをおすすめします。
手や机についてしまったエポキシをふき取る用にアルコール含有量の高いウェットティッシュがあると便利です。




換気を忘れずに!


エポキシに限らずですが、塗料やコーティング剤には、有機溶剤系の有害成分が多く含まれている為、換気は必須です。

そして、火気は厳禁!直接火に触れないように十分注意が必要です。

小さなお子様の手の届かない場所に保管し、取り扱いには十分に注意して、安全にルアーメイキングを楽しみましょう。